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名古屋地方裁判所 昭和34年(行モ)3号 決定

申立人 愛知交通株式会社

被申立人 愛知県地方労働委員会

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立人代理人は「名古屋地方裁判所が同庁昭和三十四年(行モ)第二号緊急命令申立事件について昭和三十四年九月二十五日申立人に対してなした緊急命令はこれを取消す。」予備的に「名古屋地方裁判所が同庁昭和三十四年(行モ)第二号緊急命令申立事件について昭和三十四年九月二十五日申立人に対してなした緊急命令はこれを次のとおり変更する。愛知交通株式会社は当裁判所昭和三十四年(行)第二二号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、愛知県地方労働委員会が愛知交通株式会社に対してなした愛労委昭和三十三年(不)第一五号不当労働行為救済申立事件の命令中、山田朝士を昭和三十三年十一月八日当時の原職に、佐藤日重を同月十日当時の原職に夫々復帰させ、昭和三十四年六月九日に至るまでの間に右両名の受くべかりし給与相当額を支払わねばならない」との裁判を求め、その理由として次のとおり主張した。即ち(一)申立人は昭和三十四年十月六日、申立人被申立人間の名古屋地方裁判所昭和三十四年(行モ)第二号緊急命令申立事件についての決定正本を受領した。右決定の主文は「被申立人(本件の申立人)は当裁判所昭和三十四年(行)第二二号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで申立人(本件被申立人)が被申立人(本件申立人)に対してなした愛労委昭和三十三年(不)第一五号不当労働行為救済申立事件の命令に従い山田朝士を昭和三十三年十一月八日当時の原職に、佐藤日重を同月十日当時の原職に夫々復帰させると共に解雇から右復帰するまでの間に右両名の受くべかりし給与相当額を支払わなければならない」というにある。(二)しかしながら申立人は愛労委昭和三十三年(不)第一五号事件の命令を遵守する意思を有し、出勤簿を備付ける等して履行の準備を整えて山田朝士、佐藤日重の速かな復帰を待つていた。然るに右両名は前記命令を承知していて、速かに申立人会社の職場に復帰すべき権利のみならず責務を有するに拘らず命令送達後旬日を経過するも復帰をなさなかつたので、申立人は被申立人を通じて前記両名に対し昭和三十四年五月二十四日、同月三十一日、同年六月七日の三回に亘り命令を履行するように通告した処、右両名は申立人会社に数回出頭しながら職場復帰の意思なく、ただ申立人会社幹部及び従業員に対して暴言を呈するのみで同年六月十日には内容証明郵便を以て申立人に対し新たな申入れをなすに至つた。思うに右両名は命令履行の意思なきものである。即ち昭和三十三年十一月同人等は解雇されて後直ちに他に職を得、爾来今日まで収入の道を充分得ており緊急にその生計確保を講じてやらねばならない実状ではない。右両名は救済の申立をし、これが命令を得ながら自らその命令を遵守しようとしないのであるから、その相手方である申立人のみがこの命令を受認しなければならない理由はない。(三)よつて前記緊急命令は取消さるべきであるが、仮りに然らずとするも右両名は前記のとおり申立人が同人等の職場復帰を持つているのに拘らず、申立人会社に出頭しても申立人の右職場復帰受入れ態勢に反撥するのみで、その後は無断欠勤に及ぶこと久しかつたので昭和三十四年六月九日就業規則第二十八条、労働基準法第二十条に則り改めて右両名を解雇した。従つて前記緊急命令も予備的申立の範囲に変更せらるべきであるから本申立に及んだ。

よつて按ずるに、申立人の申立理由(一)の事実は当庁昭和三十四年(行モ)第二号緊急命令申立事件の記録によつて認められる。次に右記録並びに本件記録中の申立人提出にかかる証拠資料及び被申立人代表者野村均一、山田朝士、佐藤日重の各審尋の結果に徴すると山田、佐藤両名は申立人会社に運転者として雇われていたが、山田は昭和三十三年十一月八日、佐藤は同月十日夫々解雇の意思表示を受けたので被申立人に対し右解雇は不当労働行為なりとして救済の申立をなしたところ、同三十四年五月十一日付で被申立人から申立人は右解雇を取消して前記両名を原職に復帰させ解雇申渡しの日までの間に同人等が受くべかりし賃金相当額を支払わなければならない旨の救済命令がなされた事実、右命令書は同月十六日申立人及び山田、佐藤の両名に対して送達された事実、右両名は該命令書を受領後直ちに(同月十八日)申立人会社東桜町営業所に赴いたのであるが、代表者中村卯助不在のため松田営業部長等に対し、該命令を履行するよう申入れ、同月二十七日には代表者中村卯助に対し該命令の履行方申入れたのに拘らず同人は右両名に対し「頭を切換えて来い」というのみであり、その後数回にわたる前記両名の該命令に基く職場復帰の意思表示及び之が履行の提供にも拘らず申立人会社の従業員をして前記両名を追返す等して今日に至るまで該命令の履行をなさなかつた事実が認められる。然らば該命令に基く前記両名に対する原職復帰につきその履行の提供をなしたことを前提とする申立人の本申立はすべて理由がなく、他に本件緊急命令を取消し、若くは変更すべき事由もないから失当として却下すべく、申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤淳吉 小淵連 梅田晴亮)

【参考資料】

緊急命令申立事件

(名古屋地方昭和三四年(行モ)第二号昭和三四年九月二五日決定)

申立人 愛知県地方労働委員会

被申立人 愛知交通株式会社

主文

被申立人は当裁判所昭和三十四年(行)第二二号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで申立人が被申立人に対してなした愛労委昭和三十三年不第一五号不当労働行為救済申立事件の命令に従い山田朝士を昭和三十三年十一月八日当時の原職に、佐藤日重を同月十日当時の原職に夫々復帰させると共に解雇から右復帰するまでの間に右両名の受くべかりし給与相当額を支払わなければならない。

(裁判官 伊藤淳吉 小淵連 梅田晴亮)

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